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「自ら検証する」を、切って測ってみた

OCR の検証パイプラインを対象にした対照実験。検証・補正の機能を一つずつ切りながら効果を測りました。人手で正解を付けた 333 セルでは、全部切ると値の正確さが 93.7% → 91.3% に落ち、10 セルで座標が消えます。直したセル 22、壊したセル 0 — そしてどのパイプラインでも再現できる測定手法。

9 分で読了· 2026-07-29

「自ら検証する OCR」は主張です。そして切って確かめられない主張は、測定とは呼べません。だから実際に切ってみました。

この記事はその結果です。space-ocr エンジンの検証・補正機能を一つずつ切りながら、エンジンとは無関係に作られた二つの正解と突き合わせて採点しました。数字と採点方法、そして各シグナルが何を保証するのかを順に書きます。LLM の上に抽出パイプラインを組んでいるなら、私たちの数字より測定方法のほうが役に立つはずです — 最後の節がその話です。

「昨日と同じなら正解」の罠

OCR の回帰テストの多くは、「以前うまくいった実行結果」を保存しておき、今日の結果をそれと突き合わせて採点します。何かが変わったことを検出するには有効ですが、正しさの証拠にはなりません。昨日の出力を正解の定義にすれば、今日の出力は当然それと一致するからです。私たちのテストも bbox 318/318 = 1.000 という数字を出しますが、この数字はテストの外では何の意味も持ちません。社内文書に「循環指標」と明記し、外には引用していません。

検証が本当に効いているかを測るには、パイプラインが手を出せない場所から正解を持ってくる必要があります。二つ使いました。

  • ground_truth.json。人が元の画像を見て手で書き起こしたテキストです。エンジンの出力とは無関係に作られています。
  • 座標 — ページ自身の Vision OCR 結果。返したボックスの中に入る単語をつなげて読み、返した値と同じ文字列になるかを確かめます。過去の保存結果は一切見ません。
座標の審判 — ページがパイプラインを採点する
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# The page's own OCR is the judge — no snapshot, no circularity.
def spells(box, vision_words, value):
    inside = [
        w["text"] for w in vision_words
        if box["xmin"] <= (w["bbox"]["xmin"] + w["bbox"]["xmax"]) / 2 <= box["xmax"]
        and box["ymin"] <= (w["bbox"]["ymin"] + w["bbox"]["ymax"]) / 2 <= box["ymax"]
    ]
    return norm(value) in norm("".join(inside))

# A returned coordinate is wrong when the words under it do not spell
# the value that coordinate was attached to.
bad = [c for c in boxed_cells if not spells(c["bbox"], words, c["value"])]

面白いのは二つ目です。座標を返すというのは「先月もこのボックスが出た」ではなく、この値をこの場所から読んだという主張です。そしてその主張は、ページ自身が検査できます。ページ全体が、位置のわかる OCR 文字で覆われているからです。ボックスの中の文字をつなげて読んで値と違うなら、その座標は間違い。過去の結果と比べる必要はありません。

測定に使った文書セット: 実際に問題になった文書を集めた自社の回帰ケース 11 件。人手で正解を付けたセルが 333 個あり、うち 317 個に座標が付きます。保存しておいた Vision 出力とモデル応答を再生する方式なので、結果は毎回同じです — 10 回走らせても同じ数字が出ます。難しい書類をあえて集めた自前のセットで、公開ベンチマークではありません。以下のすべての数字にこの但し書きが付きます。

検証を一つずつ切る

エンジンでモデル応答のあとに走る検証・補正の段は、それぞれ独立にオン・オフできます。モデル応答はバイト単位でそのままに、特定の段だけを外せるということです。ここで切ったのは三つ。

  • 単語トークン照合 — モデルが「この値はページのこの単語から読んだ」と指した単語を、実際の OCR 単語と突き合わせ、本当にその値を綴っているか確かめてから座標に使う経路
  • 座標ヒント — 別のモデル呼び出しで受け取る「値はだいたいこの辺り」という位置情報。同じ値がページに複数回現れるとき、どれを指すかを選ぶのに使います
  • 表記の復元 — モデルが 2025年09月05日2025-09-05 に書き換えてしまったとき、ページに実際に印字された表記へ戻す段
構成値の正確さ(人手の正解と比較)座標が付いたセルボックス内の文字が値と一致
全段オン312/333 = 93.7%317/333292/317 = 92.1%
全段オフ304/333 = 91.3%307/333278/307 = 90.6%

合計の数字は方向を隠します — 「+2.4 ポイント」だけでは、20 個直して 10 個壊したのか、何も壊していないのか区別できません。だからセル単位で突き合わせました。

切った段直った値壊れた値直った座標壊れた座標
単語トークン照合00100
座標ヒント0020
表記の復元8020
三つすべて80140

直したセル 22、壊したセル 0。 検証をオンにしたせいで悪くなったセルは一つもありませんでした。本当に確かめたかったのはこの結果で、冒頭のパーセントより重要です。8 セル直すかわりに 3 セルを黙って壊すような機能なら、平均が上がってもオンにすべきではないからです。

✓ Verified

直った 8 つの値の正体。 8 件すべて表記(区切り文字)の問題でした — 納品日 delivery_date 3 件、小計 subtotal 2 件、合計 total 2 件、明細行の単価 unit_price 1 件。ページには 2025年09月05日¥1,451 と印字されているのに、モデルが 2025-09-051451 に書き換えてしまったケースです。数字そのものは最初から合っていて、変わったのは表記だけ。ページの元の表記に戻す処理が安全なのは、条件を狭く絞っているからです — 数字の並びが完全に一致すること、数字以外の文字が両側ともホワイトリストにあること、値の途中に通貨記号が挟まっていたら拒否、カンマの桁区切りが自然であること。最初の適用時にはこの最後の条件が候補を 1 件はじきましたが、補正機能とはそうあるべきです。

フラグは本当の問題を指しているか

座標が付いたセルには、二つのフラグが一緒に返ります。text_verified は「ボックス内の OCR 文字とモデルの値が一致しているか」、needs_review は「人が見るべきか」。当然の疑問は、このフラグが本当に間違っているセルに付くのか、ということです。

まず問題セルを定義します — 値が人手の正解と違う、または、ボックス内の文字が値と一致しないセル。333 個中 39 個、全体の 11.7% です。

シグナル測定の結果
text_verified: falseフラグの付いた 8 セル中 6 セル(75%)が本当に問題セル — 無作為に選んだ場合(11.7%)の 6.4 倍。二つのエンジンがボックスの中身で食い違ったら、4 回に 3 回はそこに本当に問題があります
needs_review座標が間違っているセル 25 個のうち 10 個(40%)を捕捉 — 過去結果との比較では測ることすらできない数字です

text_verified: false は精度重視の側です。付くセルは少なく、付いたら見る価値があります。needs_review はあえて広めに拾う側 — 黙って通すより多めに含める設計で、人のレビュー待ち行列に流す信号はそうあるべきです。

この検証が保証すること・しないこと

数字を正しく読むには、何を保証しているのかをはっきりさせる必要があります。この突き合わせが保証するのはボックスと文字が合っていること — 受け取った値が、座標の指すまさにその場所から読まれたことです。正しいフィールドを読んだか — 単価を隣の列から取っていないか、敬称が名前に混ざっていないか — は意味の問題で、それは構造化された出力の上でスキーマ検証と業務ルールが担う仕事です。二つの層は補完関係にあります。座標は値の一つひとつを目で確かめられるようにし、スキーマはレコード全体のつじつまを合わせます。本番のパイプラインは両方を回します。

規模感のための本番の数字

上の文書セットは小さく、わざと難しくしてあります — この仕組みの価値が出るのは実トラフィックです。本番リクエスト 2,165 件でフィールドが 9,685 個返り、97.2% に座標が付きました。フラグは振り分け役をきちんと果たしています。おおよそ 5 つに 4 つはレビュー信号なしで届いてそのまま自動受け入れでき、needs_review が残りの 1 つに人の目を集めます。応答時間は代表的な 1 日(262 件)で p50 7.2 秒、p90 10.5 秒 — 自社ログで観測した分布であって、保証値(SLA)ではありません。

同じ測定を自分のパイプラインで

持ち帰る価値があるのは私たちのパーセントではなく、測定の組み立て方です。

  1. 昨日の出力を正解にしない。 保存した過去結果と比べるテストは、何が変わったかを教えてくれるだけで、合っているかは教えてくれません。
  2. パイプラインが手を出せない正解を探す。 値は人が書き起こせば作れます。座標は — OCR 層がすでにページ全体の文字と位置を知っています。自分の出すすべてのボックスを無料で採点してくれる独立の審判なのに、そう使っている例はほとんどありません。
  3. 平均ではなくセル単位で採点する。 平均は、得たものと失ったものを塗りつぶします。「22 直して 0 壊した」は「+2.4 ポイント」よりはるかに強い文で、出してよいかを教えてくれるのもこちらです。
  4. 入力を固定して再生する。 Vision 出力とモデル応答を保存しておき、試したい段だけを切り替えます。LLM を含む段をライブで A/B すると、自分の変更ではなく LLM の出力ゆらぎを測ることになります。
  5. スキーマ検証と組み合わせる。 文字単位の突き合わせは出どころを — 値が座標の指す場所から来たことを — 保証します。合計が合う・日付が範囲内・必須フィールドが揃っている、といった意味の検証はレコードを保証します。本番で持ちこたえるパイプラインは両方を回しています。

この記事で扱ったシグナルを実際に見るには — POST /ocr/fields が値ごとに bboxverticesbbox_sourcetext_verifiedneeds_review を返し、フラグの付いたフィールドの一覧 review_summary も一緒に載ります。アプリケーション側でこれを自動受け入れ/人手レビューの振り分けに使う方法はバウンディングボックスで OCR 結果を検証するにあります。

座標を保存済みの過去結果と比べてはいけないのですか?
過去の実行結果は「昨日と同じなら正解」と正解を定義してしまいます。変化の検出には有効ですが、座標が合っているかには答えられません。ページ自身の OCR 文字を審判にすればこの循環は消えます — 返したボックスの中の文字をつなげて読んで返した値にならないなら、過去の結果が何と言おうとそのボックスは間違いです。
「22 セル直して 0 セル壊した」とは具体的に?
検証・補正をすべてオンにしたパイプラインと、すべて切ったパイプラインをセル単位で比べたとき、値 8 個と座標 14 個が「オンなら正しく、オフなら間違い」でした。逆はゼロ — 切ったほうが正しいセルは一つもありません。2026 年 7 月、自社 333 セルのコーパスでの測定です。
text_verified: false が付いたら値が間違いということですか?
いいえ。ボックス内の OCR 文字とモデルの値が食い違っている、という意味です。私たちの測定ではそうしたセルの 75% に実際に値か座標の問題がありましたから強いレビュー信号ですが、判定ではなく「二つのエンジンの意見が割れた」という報告です。
スキーマ検証や人のレビューの代わりになりますか?
なりません — どこに人手をかけるかを振り分ける役です。突き合わせは各値が座標の指す場所から読まれたことを保証し、フラグは信号の食い違ったセルに人の注意を集めます。合計の一致・日付の範囲・必須フィールドといった意味のルールは、構造化出力の上のスキーマ検証の仕事です。本番のパイプラインは両方の層を回します。

上のすべての数字の出どころと時点: 自社回帰コーパス 11 ケース・人手で正解を付けた 333 セル・保存入力の再生・2026 年 7 月。本番の数字は 2026 年 7 月 15〜27 日のログ。公開ベンチマークではなく、他社のベンチマーク表とは比較できません。

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